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東大教授 浜野保樹が語るメディアの革命
市場で見る 日本アニメの潜在力
2009年04月20日(Mon) 浜野保樹
日本アニメーションの国際競争力
アニメーションの国際競争力がいかに強いかを知るためには、実写映画と比較すれば簡単だ。アメリカ国内興行の統計が整備されているので、アメリカに限定する。
アメリカ人の多くは映画を娯楽と割り切っているため、字幕を読まなければならない外国映画を好まない。そんな中、外国映画が興行成績1000万ドル、約10億円の壁を突破するのは至難のわざである。ちなみにアメリカでは1億ドルを越えると大ヒットとされる。
黒澤明作品でも『乱』(1980年)の731万ドルが最高で、アメリカでヒットしたと言われる『Shall We ダンス?』(1997年)でさえ949万ドルであった。日本映画で1000万ドルを超えた唯一の実写映画、というよりも特撮映画は『ゴジラ2000ミレニアム』(2000年)であり1,003万ドルであった。
それに比べてアニメーションは1,000万ドルを超えた作品が、『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』『劇場版ポケットモンスター 幻のポケモン ルギア爆誕』『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』『劇場版ポケットモンスター 結晶塔の帝王 ENTEI』『千と千尋の神隠し』と5本もあり、英語に吹き替えられているとはいえ、特にポケモン・シリーズの強さが際だっている。
初めての劇場版となった『ミュウツーの逆襲』、アメリカ題名『Pokémon The First Movie』に至っては、全米約3,000スクリーンで公開され、興行収入8,574万ドルを記録している。週間興行で初登場第1位に日本映画で初めてなった。なお日本国内の興行成績は41億円であった。当時の日本スクリーン数は2,221であったため、アメリカでは日本全部よりも多いスクリーンに、ポケモンが映し出されていたのだ。
テレビについても同様で、1978年からフランスで初めて放映された日本アニメーション、永井豪原作『UFOロボグレンダイザー』(仏名GOLDORAK)シリーズの人気はすさまじく、平均視聴率は70%を越え、最高視聴率は100%だったという伝説まである。さすがに視聴率100%というのは信じられなかったため、2003年にパリで政府関係者に視聴率の記録資料を見せてもらったことがある。
その記録資料によると、二桁しかない視聴率の欄には「- -」と横棒が二つ並んでいた。視聴率は通常二桁なので、「100」とは表記できない。このため、「- -」という表示になったようだ。調査方法の精度はともかく、『UFOロボグレンダイザー』の視聴率は公式の記録上でも100%であることを自分の目で確かめた。
市場規模の推計
こういった個別の逸話なら、いくらでも並び立てられるし、既に拙著『模倣される日本』で紹介済みなので、そちらに譲るが、日本のアニメーション輸出の全体像をとらえる統計資料となると、存在しないのが実情である。 それどころか国際市場規模すらもわからない。公表されているものとしては、韓国政府の736億ドル(1998年時点)だけだと思われるし、その2年前には世界で見られているアニメーションの65%が日本製であるという調査結果を韓国政府の高官が発表している。いずれの数値についても根拠は示されていない。ただ736億ドルは、民間調査会社
PriceWaterhouseCoopersが公表している劇場映画の世界市場規模の約900億ドル(現時点)に近似している。
アニメーションの市場規模の推計が困難なのは、BtoCの映画だけでなく、BtoBのテレビ放送も含まれているからだ。
日本アニメの国内市場として、約2,000億円という額が取り上げられることが多いが、これは、映画の興行収入とDVDなどのパッケージ売り上げ、そしてテレビアニメーション制作費(アニメ制作会社から放送局へのコンテンツ販売料)が加算されたものである。この推計では、BtoBのテレビ放送に関する"売り上げ"として、制作費が計上されている。しかし本来ならば局に入る、番組のスポンサー料(広告収入)に置き換えるべきで
あると思う。残念ながら現状では、市場全体が低く見積もられてしまっている。
さらに推計を困難にしているのは、アニメーションが本体よりも、そこから派生するキャラクター商品の売り上げの方が大きい点だ。それを抜きにアニメーションのビジネスは語れない。
そのことはディズニーの成功を例に出すまでもないことだ。アニメーションをキャラクター生成のエンジンであることを発明したウォルト・ディズニー社は、1923年の創業後、テーマパーク、実写映画に進出。三大ネットワークのABCなどの放送局を傘下に納め、世界有数のエンターテインメント企業となった。ウォルト・ディズニー社の2007年度総売上高は355億ドルに及び、ドルが下がったとはいえ3兆円を越える。
アニメーションは文化に支配されにくく、無国籍性が高い。また不測の事態やスターのきまぐれからも隔絶でき、制作やキャラクターの管理もしやすい。息の長い、ストック型のコンテンツである。エンターテインメント・ビジネスを越えて、他のビジネスとの融合もしやすいため、その市場を算出することは至難の業である。
本文来源:https://www.wddqxz.cn/df14a378168884868762d60a.html