30大冒険

2023-04-09 12:59:11   文档大全网     [ 字体: ] [ 阅读: ]

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30大冒険
大冒険

講堂での野宿の次の次の日、とうとう、トットちゃんの大冒険の日が来た。それは、泰明ちゃんとの約束だった。そして、その約束は、ママにもパパにも、泰明ちゃんの家の人にも、秘密だった。その約束が、どういうのか、というと、それは、「トットちゃんの木に、泰明ちゃんを招待する」というものだった。トットちゃんの木、といっても、それはトモエの校庭にある木で、トモエの生徒は、校庭のあっちこっちに自分専用の、登る木を決めてあったので。トットちゃんのその木も、校庭のはしっこの、九品仏に行く細い道に面した垣根の所に生えていた。その木は、大きくて、登るときツルツルしていたけど、うまく、よじ登ると、下から二メートルくらいのところが、二股になっていて、その、またのところが、ハンモックのように、ゆったりとしていた。トットちゃんは、学校の休み時間や、放課後、よく、そこに腰をかけて、遠くを見物したり、空を見たり、道を通る人たちを眺めたりしていた。

そんなわけで、よその子の木に登らせてほしいときは、 「御免くださいませ。ちょっとお邪魔します。

という風にいって、よじ登らせてもらうくらい、木に登ったことがなく、自分の木も、決めてなかった。だから、今日、トットちゃんは、その自分の木に、泰明ちゃんを招待使用と決めて、泰明ちゃんと、約束してあったのだ。トットちゃんは、家を出るとき、 「田園調布の、泰明ちゃんの家に行く」

とママに言った。嘘をついてるので、なるべくママの顔を見ないで、靴の紐のほうを見るようにした。でも、駅までついてきたロッキーには、別れるとき、本当のことを話した。 「泰明ちゃんを、私の木に登らせてあげるんだ!」

トットちゃんが、首から紐で下げた定期をバタバタさせて学校に着くと、泰明ちゃんは、夏休みで誰のいない校庭の、花壇のそばに立っていた。泰明ちゃんは、トットちゃんより、一歳、年上だったけど、いつも、ずーっと大きい子の様に離した。

泰明ちゃんは、トットちゃんを見つけると、足を引きずりながら、手を前のほうに出すような恰好で、トットちゃんのほうに走ってきた。トットちゃんは、誰にも秘密の冒険をするんのだ、と思うと、もう嬉しくなって、泰明ちゃんの顔を見て、 「ヒヒヒヒヒ」

と笑った。泰明ちゃんも、笑った。それからトットちゃんは、自分の木のところに、泰明ちゃんを連れて行くと、昨夜から考えていたように、子使いの小父さんの物置に走って行って、立てかける梯子を、ズルズル引っ張ってきて、それを、木の二股あたりに立てかけると、どんどん登って、上で、それを押さえて、 「いいわよ、登ってみて?」

と下を向いて叫んだ。でも泰明ちゃんは、手や足の力がなかったから、とても一人では、一段目も登れそうになかった。そこに、トットちゃんは、ものすごい早さで、後ろ向きになって梯子を降りると、今度は、泰明チンのお尻を、後ろから押して、上に乗せようとした。ところが、トットちゃんは、小さくて、痩せているだったから、泰明ちゃんのお尻を押さえるだけが精いっぱいで、ぐらぐら動く梯子を押さえる力は、とてもなかった。泰明ちゃんは、梯子にかけた足を降ろすと、だまって、下を向いて、梯子のところに立っていた。トットちゃんは、思っていたより、難しいことだったことに、初め気がついた。 (どうしよう?)

でも、どんなことをしても、泰明ちゃんも楽しみにしている、この自分の木に、登らせたかった。トットちゃんは、悲しそうにしている泰明ちゃんの顔の前にまわると、頬っぺたを膨らませた面白い顔をしてから、元気な声で言った。


「待ってて?いい考えがあるんだ!!」

それから、まだ物置まで走っていき、なにが、(いい考えのものはないか)と、いろいろなものを、次々と引っ張り出してみた。そして、とうとう、脚立を発見した。 (これなら、ぐらぐらしないから、押さえなくても大丈夫)

それから、トットちゃんは、その脚立を、引きずってきた。それまで、「こんなに自分が力持ちって知らなかった」と思うほどの凄い力だった。脚立を立ててみると、ほとんど、木の二股のあたりまで、とどいた。それから、トットちゃんは、泰明ちゃんのお姉さんみたいな声で言った。

「いい?こわくないのよ。もう、グラグラしないんだから。

泰明ちゃんは、とてもびくびくした目で脚立を見た。それから、汗びっしょりのトットちゃんを見た。泰明ちゃんも、汗びっしょりだった。それから、泰明ちゃんは、木を見上げた。そして、心を決めたように、一段目に足をかけた。

それから、脚立の一番上まで、泰明ちゃんが登るのに、どれくらいの時間がかかったか、二人にも分からなかった。夏の日射しの照りつける中で、二人とも、何も考えていなかった。とにかく、泰明ちゃんが、脚立の上まで登れればいい、それだけだった。トットちゃんは、泰明ちゃんの足の下にもぐっては、足を持ち上げ、頭まで泰明ちゃんのお尻を支えた。泰明ちゃんも、力の入る限り頑張って、とうとう、てっぺんまで、よじ登った。 「ばんざい!」

ところが、それから先が絶望的だった。二股に飛び移ったトットちゃんが、どんなに引っ張っても、脚立の泰明ちゃんは、木の上に移れそうもなかった。脚立の上につかまりながら、泰明ちゃんは、トットちゃんを見た。突然、トットちゃんは、泣きたくなった。 (こんなはずじゃなかった。私の木に泰明ちゃんを招待して、いろんなものを見せてあげたいと思ったのに、

でも、トットちゃんは、泣かなかった。もし、トットちゃんが泣いたら、泰明ちゃんも、きっと泣いちゃう、と思ったからだった。

トットちゃんは、泰明ちゃんの、小児麻痺で指がくっついたままの手をとった、トットちゃんの手より、ずーっと指が長くて、大きい手だった。トットちゃんは、その手を、しばらく握っていた。そして、それから、いった。 「寝る恰好になってみて?引っ張ってみる?」

このとき、脚立の上に腹ばいになった泰明ちゃんを、二股の上に立ち上がって、引っ張り始めたトットちゃんを、もし、大人が見たら、きっと悲鳴をあげたに違いない。それくらい、二人は、不安定な恰好になっていた。

でも、泰明ちゃんは、もう、トットちゃんを信頼していた、そして、トットちゃんは、自分の全生命を、このとき、かけていた。小さい手に、泰明ちゃんの手を、しっかりとつかんで、ありったけの力で、泰明ちゃんを、引っ張った。 入道雲が、時々、強い日射しを、さえぎってくれた。 そして、ついた、二人は、木の上で、向かい合うことが出来らのだった。トットちゃんは、汗で、ビチャビチャの横わけの髪の毛を、手で撫でつけながら、お辞儀をしていった。 「いらっしゃいませ」

泰明ちゃんは、木に、寄りかかった形で、少し恥ずかしそうに笑いながら、答えた。 「お邪魔します」

泰明ちゃんにとって、初めてみる景色だった。そして、 「木に登って、こういうのか、て、わかった。 って、嬉しそうにいった。


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